クリスマスが終わったショッピングモール

クリスマスが終わったショッピングモールの中は、閑散としている。クリスマスの飾り付けが取り外され、お客の数も激減する。まるで広場で遊んでいた子供たちが、夕食の時間を思い出し蜘蛛の子を散らすように家に帰った後の、その広場のようだ。

だが家に帰りそこねた男の子が一人いる。彼はエレベーターの横の規制線を張られた狭い場所に置かれた、大きな椅子の上で遊んでいる。ぐにゃぐにゃと体をくねらせ、椅子の上で子供ヨガ体操をやっている。大きな椅子、ふかふかのとても大きな椅子の上で。

それはクリスマス前に小さな子供たちを膝に座らせ、記念写真を撮ったサンタの椅子だ。

その後ろにある暖炉もまだそこにある。だが暖炉の火は燃えておらずしんとしている。

モール内のステーションから来たポリスマンが二人、男の子のそばに立って何かひそひそ話している。男の子はだがそんな事はお構いなしに、椅子の上で例のグニャグニャ体操をやっている。そしてついに椅子の上で逆立ちをした。

「それでサンタはいつ来ると言ったの?」男の子の右側に立つ若いポリスマンが聞いた。「今日だよ、今日の2時だよ」男の子が逆立ちした体をぱっと元に戻して明るく答えた。「もう2時20分だ」中年のポリスマンが 腕時計を見て言った。

つまり男の子は、今日12月26日にここにサンタがやって来る。そしてクリスマス前に撮りそこねた二人の記念写真を今日ここで撮るのだと言っているのだ。「親はどこにいるんだ?」中年ポリスが若い方に聞いた。

「今、おもちゃ屋にクリスマスのプレゼントを買いに行っているそうだ」「もうクリスマスは終わったろう」「クリスマス前にプレゼントを買うのを忘れたそうだ」中年ポリスがしきりに頭を横に振った。

男の子は外見からすればどこにでもいる普通の子で、特にポリスマンをからかっている風でもない。精神に問題がなければ。例えば虚言癖、妄想癖などの内面の問題だが。服装、喋り方なども、むしろ裕福な家庭の子にすら見える。髪の切り方などが上品だ。

そこへすぐそばの右手にある宝石屋の中から、若い奇麗な女が出て来て「ヘンリー!」と男の子に声をかけた。「君がこの子の母親か?」ポリスマンが聞く。「いえ、この子のベビーシッターよ」女はそそくさとヘンリーの手を引いて立ち去ろうとした。

「待て!おもちゃ屋に行ったんじゃないのか?」ポリスの問いにベビーシッターは「行ったわよ、そのあと宝石屋に寄ったのよ」何なのよ!と言う顔で女はポリスを見た。「なぜ子供を一緒に連れて行かなかった、一人にしたら誘拐なんて事もある」女は横を向いて‟知るか“という顔をした。だがそれ以上の反抗は見せない。ポリスの制服にいささか敬意を表している。

「あっ!サンタだ、サンター!」その時男の子が椅子から飛び下りて白髭の男に走り寄った。見ると白いあごひげにサンタのコスチュームを着た男が、もっていた黒いケースを床に置き両手で男の子をハグした。

「ほら、ほんとにサンタが来たでしょ」ヘンリーはポリスを見て得意げに言った。「君は一体何なんだ?」ポリスがサンタに聞く。「見ての通りサンタですよ」彼は両手を広げて大げさに肩をすくめた。

「オフィスで話を聞こう」ポリスの提案で彼ら5人は、モール内の有名めがね屋の隣にある、ポリスステーションに入った。

事情聴取  ポリス 「クリスマスが終わったモールになんでサンタがいるんだ?」

サンタ「僕は遅れて来たサンタなんですよ」

ポリス「なんで遅れて来たんだ?」

サンタ「車の渋滞で。クリスマス明けは意外と道が混むんですね」

ポリス「そもそもクリスマス明けにサンタの恰好でモールを歩くと言うのは、どう言う 魂胆なんだ。その下心を聞こう」

ヘンリー「だから言ったでしょ、僕と写真を撮るために来てくれたんだ」

ベビーシッター「その事は私も知ってるわ、その時そばにいたから。ヘンリーはとうとうサンタと写真が撮れるとすごく喜んでいたの。ヘンリーの両親はサンタなんてどこにもいないと昔から彼に言ってるから。モールのサンタはただの芸人だって。ヘンリーはまだ5才なのに」

サンタ「僕が25日にここに来るとこの子がここでしょんぼりしている。事情を聞くと、サンタと写真を撮りたいけどママもパパも許してくれない、と泣きそうにしている」サンタがベビーシッターをちらりと見た。

そして彼は言う。「僕は学生だけど、サンタの養成学校を卒業したプロなんだ。サンタ派遣所に登録もしてる。でも今年は需要が少なくて僕には仕事が来なかった。でも何とかヘンリーの力になりたい。つまりサンタの衣装を着た僕と撮った彼の写真をプレゼントしたいと思った」

そこでベビーシッタが助け舟を出した。「私は彼の親切心が分かったから、もしあなたにそれが出来るならどうぞお願いするわと言ったの。両親には私からすべてを話す、撮った写真を見せれば両親だってきっと喜んでくれるわと言ったのよ」

サンタの衣装も椅子も暖炉も派遣会社に事情を話し、もう一日貸してくれる事に話をつけた。会社は快く承諾してくれ、しかも無料でと言う事になった。何もかもうまく行ったとサンタとベビーシッターが顔を見合わせた。子供の誘拐どころか子供を幸せにする話だった。   

殺人や暴動の多い今の世の中でこんな話を聞くとは。二人のポリスマンはこの街の治安の良さに感謝した。彼らはサンタが床に置いた黒いケースの中からカメラを取り出し、いそいそとセットするのを微笑しながら見ていた。

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