あの女がハリウッドの女優だなんて嘘だ。あんな女がセレブだなんて信じがたい。年がら年中麦わら帽子にサングラス、薄汚れた白いロングドレスの腰をスカーフで縛り、ふらふらと歩く。ホームレスと一般人の境界線を、綱渡りするようなあの歩き方。気持ちの悪い女。
「あの人は一体何者?」以前、たまたま遊びに来ていた、同じアパートの住人に聞いたことがある。キッチンの窓から、すぐ前のサイドウォークを歩くその女が見えたのだ。車の往来の激しい通りで、時々騒音に吸い込まれそうになりながら、ふらふらと揺れるように歩く。ロングドレスのすそが地面を引きずっていた。「女優さんなのよ、ハリウッドのね。一時とても人気があったんだけど、今はさっぱり売れなくて、でもまだリタイアはしてない見たいよ」「幾つなの?」「さあー、そう言えばあなたも女優だったんでしょ、日本で」「まあね、私も売れなくなってロスに来たの、五年前にね」唇をねじまげ自嘲げに笑った。今の日本で私の事を覚えてる人間などもういない。外に目をやると沿道の女はかき消えていた。その向こうにある大海原が群青色の大マントを広げ、女を包み隠したのだ。後にその住人も東部に越し、他の誰かに聞いても皆、そんな女見たこともないと言った。彼女への不信感が徐々にノスタルジーに変わる。








