ポーチに立って外を見ていた

ポーチに立って外を見ていた。気持ちの良い朝だ。中庭の落葉樹も今は夏の光を受け、その緑葉の強い息吹が聞こえるようだ。私は手にしていたコーヒーを一口飲み、カップをそばのキャビネットに置いた。

その時だった。右手の建物の上から、頭が白く体は黒い大きな鳥が目の前を横切って行った。黄色いくちばしの先が下にまがっている。

私はびっくりしてその姿を見逃すまいと、目をこらし鳥を見つめている。鳥は巨大な黒い紙飛行機のように、別の建物の屋根と木々の梢に切り取られた薄青の空に、滑るように舞い上がりそのまま消えて行った。

「あれはハクトウワシだな」と私は思った。ハクトウワシ、英語名はBald Eagleと言う。そんな事をなぜ知っているかと言うと、毎朝見るニュース番組の冒頭で同じ種類の鳥が、とても高い木の上から下界を見下ろす画像を見ていたからだ。鳥のそばには巣の中の2個の卵が写し出され、ワシは卵の孵化にいそしんでいる事が解る。

毎朝写し出されるので視聴者は(と言うか私は)いつヒナが孵化するかと楽しみなのだ。ハクトウワシはアメリカの国鳥、その番組は卵を孵化するワシの映像で、少しでもアメリカ国民の心を揺さぶろうとしたのかも知れない。視聴率を稼ぐために。

だがいつまで経っても卵はかえらない、私はその番組を見るのをやめてしまった。そこへ突然現れた大ワシの飛翔、地上で生で見るハクトウワシの飛翔、私はワシが孵化を終わりそれを知らせるために、私に会いに来たのではと勝手に思ってしまった。

果てしない空の向こうに鳥の姿が消えると、私の真向かいの斜め上の2階のポーチから、やはり外を見ている女性に気づいた。最近越して来たと噂のある女性だ。私は手を上げた。朝の挨拶のつもりだった。だが彼女は無視した。

それから2週間程して買い物がてらにモールへ行きコーヒーショップに寄ると、奥の席に先日の女性がアイスコーヒーを飲んでいる。私が「こんにちは」と言うと彼女は何も言わずにっこりと笑った。

許可を得て彼女の前に座り「この前の大ワシにはびっくりしましたよね」と言うと彼女は首を傾げて「何の事?」と言った風に私を見た。「ほら、大きなワシがコンドの中庭を飛んで行ったでしょ、あなたもポーチに立っていたから見たと思ったけど」と言うとあーと言う風にうなずき「あれはワシではないわ、カラスよ大きなカラスよ」とにやりと笑った。

彼女はすらりとした黒人の女性でとても聡明な顔をしていた。近くのコミュニティカレッジで、英語の講師をしていると言った。私はずっと昔住んでいたアメリカ東部のコミュニティカレッジで、やはり英語の授業を受けた事を思い出しその事を話した。彼女は相づちを打ちながら興味深く聞いていた。

そして私が「英語のテストはとても簡単だった。試験のための問題集があり、先生はその中からテスト問題を選びしかもどのページかも明かしてくれる。生徒はただ後ページに載っている答を丸暗記すればいいだけだった。私はいつも100点満点を取った」と言うと彼女は薄ら笑った。

「そんな事は学校によって違うわ」と言うと立ち上がり店を出て行った。何となく人と面と向かって話すのが苦手、と言うか嫌なようだった。私は毎朝ポーチから中庭を見るのが習慣になっているが、その後はその女性を彼女のポーチで見かける事はなくなった。

そして彼女はやがてひっそりと引っ越して行った。噂話が結構好きな私は、うわさ話に口は突っ込まないが耳は突っ込む。その女性の18才の娘が人身事故で2年前に死亡し、それからご主人との折り合いが悪くなり離婚した。そして彼女はここに来たが落ち着けずまた別の街に越したのだと、隣人たちは話していた。

ある広大な牧場主のペットであるハリスホークと言うタカが、鳥小屋から逃げ出しそれがニュースになったのはそれからすぐだった。発見者には5000ドルと言う賞金が掛けられた。飼い主が撮影したと言う鳥の写真が数枚テレビの画面に映し出された。

それは私の中庭に来た鳥にとても良く似ていた。特に羽を広げた写真は良く似ていた。ワシもタカも同じ仲間で単に大きさが違うだけだと言う。

鳥の名前はシュガーでマイクロチップも埋め込まれている、幼鳥の時に飼い始めもう20年にもなると、飼い主が涙声で言うのがテレビで映し出された。

私は別に5000ドルが欲しい訳ではないがそれからは、庭にまたあの鳥がやって来ないかと心待ちにするようになった。同時に斜め向かいの二階にも目をやり、あの黒人女性が戻ってはいないかと、かすかに期待するようになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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