ダニエルはアニメ化した子豚のような可愛い顔にぽっちゃりした体を持つ男の子で、「子豚のように可愛い」と皆に言われた。だが彼は自分の見た目が大嫌いだった。だから「どうしてこんな顔に産んだの?」とたびたび母親のシルビアに文句を言った。
すると母親は泣きじゃくる。顔をおおって泣きじゃくる。何かと言うと泣きじゃくる母親なので、彼は隣家の同い年のリーリーを泣かせたような気になり愉快だ。だから母をからかうのをやめない。と言っても母を格別すきな訳でもない。
ダニエルは小学3年生。友達が出来ない、と言うより作らない。面倒くさいのである。
だが成績優秀の出来る子である。ある教師からは「君のIQはとても高い、平均値のかなり上だ、誇りを持ちなさい」と言われ、この教師が嫌いになった。彼は何であれ自分に関わろうとする人間には冷淡である。
こんな支離滅裂な男の子に大きな悩みがあった。それは彼の庭の大きなビワの木である。ある日隣家の女の子リーリーが囁いた。「ダニー、アンタの庭のビワの木だけどさ、あれとても悪い木なんだって」「悪い木?」「そう、あの木がある家には必ず不幸な出来事が起こるんだって」「誰が言ったの?」ダニーの問いに「インターネット」と彼女は答えた。
二人はその時ダニーの庭にいたので二人してビワの木を見上げた。そこには楕円形をした金色の実がびっしりとつき二人を見下ろしていた。昨夜降った雨で実はしっとりと濡れ、ポタポタと雨のしずくがその実から落ちていた。食べればうまそうだった。
リーリーは友達嫌いのダニーの唯一の友人で、大嫌いな兵士の遊びにも文句も言わず付き合ってくれる。兵士の遊びとは草むらに隠れて、前方に敵の兵士がいると仮定してオモチャの機関銃で彼らをやっつけるのだ。「バンバンバン」と鉄砲玉の音響効果も自分で作る。その時のダニーの顔ときたら真剣そのものである。
「リーリーと遊ぶのはやめなさい」ある日母親に言われてダニーは「どうして?」と聞いた。「彼女のお母さんに言われたのよ、二人は遊んじゃいけないって」すると彼はすぐ白い柵を越え隣の庭に行き、リーリーを呼んだ。彼女はドーナツを食べていたらしく、口の周りにドーナツのカケラをいっぱいつけて出て来た。
「僕と遊びたくないって君のママに言ったの?」彼が言うと彼女は首を振った。「ママがダメって言ったの」リーリーはクルリと回れ右して家の中に入り、ドーナツを二つ持って来て一つダニーに上げた。「沼に行こうか」彼がそう言うとリーリーはうんと頷いた。歩いて3分の所にあるこの小さな沼は、二人のお気に入りの場所で「沼に行こう」と言うのが二人の合言葉だった。
この沼はとても怪しげな沼で表面がどろどろの黄緑色の藻でおおわれ、時々ずぶっずぶっと奇妙な音がして藻の上に穴が開く。まるで厚い藻にふさがれた哀れな魚たちが、息苦しく上を向きあえいでいるようだ。思わぬ所にズブッズブッと穴が開くのを、身を乗り出して見ていたリーリーがバランスを失い池に落ちてしまった。
一人では無理と思ったダニーは、大急ぎでリーリーの父親を呼びに行った。リーリーは助かったが彼女の父親は激怒し「もう二度とここには来るな‼」と彼を頭ごなしに叱りつけた。そしてその足で隣家へ行きシルビアにも同じように怒った。泣きじゃくる事しか出来ないシルビアはただ泣くばかり。
リーリーの父親が帰るとダニーはトイレに入った。さっきからおしっこがしたくて仕方がなかった。ふと窓を見るとビワの実を三個つけた枝がすぐ近くに見える。彼はちゃんと手を洗いビワの実をもぎり一つ食べてみた。甘くておいしかった。
その時なぜか彼は父親を思い出し携帯で電話をする。「ヘイ、ダニー元気か。久しぶりだな、どうしてる?」いつもと変わりない父の声に「ヘイ、ダッド」ダニーは涙が出そうになった。世界で一番好きな父親だった。
拾って来たオブジェで室内の装飾品を作るのが好きなダニーのために、彼は良さそうな廃材を出先で見つけて来る。どれもセンスの良いものばかりでダニーはいつもそれらが気に入った。父親はダニーのアーティストとしての才能を見抜いていた。
両親は三か月前に離婚したばかりだ。喧嘩ばかりしていたママとパパが、やっと離婚したのでダニーはほっとした。
数日後シルビアを訪ねて若い男とその息子がやって来た。最近母親にできたボーイフレンド。大きなマーケットでレジ係として働くシルビアに出来た恋人は、やはり同じ店のレジ係だった。
案の定、ダニーはその子供が気に入らなかった。カウチに座って彼をじっと見るこの少年は、ダニーより一つ年上だ。デイトを重ねる度にシルビアのボーイフレンドは、息子を連れて来る。アダムはこの子は言い訳ばかりする頭の悪い子だと分かったので、もう話す気にもなれない。だがリーリーとはもう遊べない。
そんな日がだらだらと続きある夜ダニエルはベッドの中で考えていた。「ビワの木は悪い木だとリーリーが言った事は本当だった。彼女とはもう遊べなくなるし、ママには変なボーイフレンドが出来るし」彼はベッドの中で何度も寝返りを打ちついに決断を下した。「よし、ビワの木を切ってしまおう」
次の日の午後、学校から帰ると彼は、ガラージの隅にあった小型電動ノコギリを取り出して来た。これは拾って来た廃材を使いやすく切るために、父親がダニーのために買ってくれたものだ。小さくてそれ程重くなくダニーにも使いやすい。
ビワの木の根元の雑草を引き抜き程よい所にノコギリの歯をあて、スイッチをオンにする。父親の指導で何度もやった事がある。手慣れたものである。性能の良いノコギリで騒音もなく、直径10インチ程のビワの木は簡単に切り倒せた。
その後ダニーの家に幸せが来たかどうかは、もう少し様子を見なければならない。