郊外のその小さな田舎町

郊外のその小さな田舎町にはなぜか占い師の数がとても多かった。それらは小さなショッピングセンターのマッサージ屋の隣にあったり、車の行き来の激しい道の横に埃だらけの裏窓をさらしたり、小さな坂道の脇に雑草に囲まれていたりと、実に商売っ気のない佇まいを見せていた。

人口の少ないこんな田舎町で、それで生計が成り立つのかと心配する向きをよそに、彼らはそうやって何十年も暮らしている。

だがそんな占い師の中で、最近とみに客足が伸びているという者が一人いた。町の人々は「どうせ猫の占い師、犬の占い師、そんなもんだろう、あるいはロボットか?」と皮肉を言った。流行らない占い師には同情を寄せるが、はやればはやったで嫉妬する。この町の人たちもそんなありきたりの人間たちだった。

占いを見てもらう人たちは多少後ろめたい気持ちを持っている、自分に問題がある事を人に知られたくない。だからなるべく人目につかないような時間帯をねらいさっと中に入る。だからその人たちに様子を聞こうと思ってもなかなか難しい。それで誰にもほんとの事はわからなかった。その占い師が女でしかも飛び切りの美人と言う以外は。

その間にも流行り始めた件の占い師は、石段を数段登った古い木造家の広いポーチを、真新しいヒノキ造りに変えたり、家の横に花に囲まれたモダンな小屋を建て、セカンドビジネスとして『瞑想教室』をも開いた。町の人々は色めき立った。「なぜあいつばかりが儲かる」

この頃から「その女占い師の頭の回りには金輪が浮かんでいる」と言う噂が立ち始めた。

キリスト教の聖母マリアの絵に見る、あの頭のまわりに描かれる金色の輪である。そんなバカなと誰も言うが、イタリアのどこぞの漁師町では、聖母マリア像の目から血の涙があふれたと言うニュースが今でも時々ある。

イタリアで起こるそんな奇跡がアメリカの片田舎で起きたとしてもなんら不思議はない。

だが噂を噂のまま捨て置くのは体に良くない。「よし、俺が調べてやる」とその時、建設作業員のラリーが乗り出した。彼は仕事柄、無粋で野暮な荒くれ男だとか言うのでは決してなかった。仕事休みの日は映画観賞、読書をそれとなく楽しむ静かな男でもある。

上半身のすべてに入れ墨を入れているが、それも上品な色合いで鳥、花、雲、月などをモダンにデザインしたものだ。それで仲間にいつも揶揄されるが気にしなかった。彼は『我が道を行く男』だった

だから自分の人生に後悔、不安などは微塵もない。あるのは一つ、疑念である。何の疑念か?それは女にもてないと言う疑念である。

見かけも悪くなく教養もある俺がなぜ女に嫌われるのか?「ラリーよ、それはあんたが死ぬほど退屈だからよ」と教えてくれる人がそばに居れば良かったが、そんな人は居なかった。

さてラリーは今、占い師の家の石段を登って行く。フロントドアの前まで来ると、さわやかでスパイシーなヒノキの匂いが鼻を刺激した。その匂いが彼を奮い立たせた。

半開きのドアからちらっと中を覗くと、机の上にうつむいている女の髪の分け目が白く見えた。次に彼女は頭を上げドアから顔だけ見せているラリーに向って、おいでおいでと手招きをした。

女の前に座ると彼女は「何を占いたいの?」ニコリともせずに聞いた。噂通り女はものすごい美人だった。ただ年が分からない。30才?50?70?にも見える。嗄れ声を消すために一つ咳をするとラリーが言った。「いつになったら女が、つまり恋人が出来るのか占って貰いたい」糞真面目な顔で言った。

「今まで恋人は出来なかったの?」と占い師が無関心に聞いた。「出来ても長続きしない」とラリーが言う。すると占い師はそばにあったタロットカードの山をいきなり崩し、両手でそれをくるくると混ぜ合わせた。

その恐ろしく長い爪にドキリとしラリーはじっと見入った。ピカピカ光る色の違うそれぞれの爪の上に、ダイヤモンドのような粒が乗っかっている。こんな爪見た事ない、とラリーはなおも見入った。

それは付け爪と言うものだよと教えてくれる奇特な人はその時も居なかった。占い師は手慣れたしぐさでカードをいじくり回すと、さっと重ねて、開いた扇の様にした裏面をラリーに示し「一枚引いて」と命令した。

ラリーが一枚引くと、彼女はそれを奪い取りテーブルの上、つまりラリーの目の前に表を広げぴしゃりと置いた。それは杖を持った全裸の女が蛇に巻かれている絵で、後ろに黄色い太陽が笑っているものだった。

ラリーの顔を見つめて「あなたは心優しく人に好かれ真面目に働く人です。このまま今の人生を楽しめば安楽な老後が待っています」占い師は言う。「勉強心もつよく周囲に惑わされず、いずれ成功した自分の世界の中で幸せになるでしょう」と続けた。

やがてラリーは占い師の頭のまわりに、金色のドーナツのような物がぼやけて浮かんでいるのに気づいた。頭のまわりを囲むその金ドーナツは、時々ふわりと彼女の頭上に浮かび上がる。ラリーはそのドーナツをじっと凝視した。

「ただ、そのあごの下の傷が気がかりね、恋人が出来ないのはその傷が原因かも」と女はじっとラリーのあごを見た。彼は黙っている。「でもここから先は第二ステージだから加算料金になる」と彼女が言ったその時、金ドーナツがまた頭上にふわり、ラリーは思わず立ち上がりそれをつかもうと手を伸ばした。

彼はバランスを失い、女占い師を押し倒すように彼女の上半身に折り重なった、いや折り重なろうとしたその時、彼女はさっと身をかわし彼の右ほほにバシャリと炸裂の大パンチを喰らわせた。

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