南カリフォルニアの海辺にある住宅街、仲良し4人組がA子の家に集まった。コロナ禍で学校は休み。4人は中学一年生、ここアメリカでは7年生。それぞれの親の事情でこの街に住んでいる。みんなマスクをつけて来たが今ははずしている。専業主婦のA子の母がスナックを用意してくれたのだ。
「ねえ、雪の日にやっちゃいけない事ってなーんだ?」A子が言う。最近とみに美しさが増した美少女だ。「何で雪の日なの?晴れの日だって雨の日だっていい訳でしょ?」B子が言った。家が寿司屋をやっている。「昨日ね、日本のニュースで東京に大雪が降ったって言ってたから」とA子「雪か、懐かしいなー」と誰かが言う。
「雪の日にやってはいけないもの、それは泥棒と浮気」とC男が4切れ目のピザに手をのばし言った。「泥棒と浮気?何それ?」とB子。「二つとも隠れてやらなきゃいけない、雪の上を普通に歩くと足跡がついていっぺんで分る」「ばかばかしい!もっとましな事言えないの」とA子が軽蔑したようにC男を見た。
「雪の上の足跡と言えばさ、この前ユーチューブの古い日本のドラマを見てたんだけど、戦時中に脱走兵が親の家に逃げ込んだ。でも大きな軍靴の足跡が雪の上に残って、『脱走兵だ』って隣近所で大騒ぎになった。でも家族が一生懸命その男をかばい半年も隠れていたって言うのがあったよ、割と面白かった」
これを言ったのはD男、IQが160もあると一時天才扱いされたが、「天才は不幸になる」「天才は早死にする」と周りから言われ、今では凡才以下になった男の子。つまり必要以上に引っ込み思案になった。
「ユーチューブのドラマと言えばいつかフランスの映画見た。雪の日に生徒たちが雪合戦するんだけど、悪ガキグループと優秀組がね、でも優秀組は雪の中に石を入れて投げる。それで悪ガキグループの中には頭にたん瘤が出来る者が出て来て、彼らは本気で怒り二組が取っ組み合いの大喧嘩をすると言う話」と誰かが言った。
「どうして優秀組がそんなひどい事するの?悪いことするのは悪ガキでしょ?」「優秀組は普段悪ガキにひどい事されてるから、仕返しするいいチャンスだと思ったんだよ、きっとそうだよ」B子が発言者をかばった。
「雪の日にやってはいけないもの、それは雪合戦か」C男が五つ目のピザに手を出した。「ちょっとC男、あんた食べすぎよ」とB子。「俺、ピザ好きだもん」「だからそんなに太ってるんだよ」「この前、宅配ピザでコロナ感染したと言うニュースがあったな」とD男。「お前まだ物知り癖が抜けないな」とC男がD男を睨みピザを元に戻した。
「あ、かもめが飛んでる、しかもすごい数!」A子が立ち上がり窓辺に寄った。この窓からは太平洋が一望に見渡せる。かすかに白波が立つ青い海の上を、10匹以上のカモメが隊列になってこちらへ飛んで来る。そしてA子の裏庭の垣根の上にずらりと並んで止まった。
「わー!!!」A子は窓辺に寄り、「こんな近くでかもめ見たの初めて、しかも目線の高さで!すごい!」「あれ知らなかった、カモメはとてもフレンドリーなんだよ」「あれ、一番左端のやつ、口になんかくわえてる」「でもこんな近くまでよく来たよな、友達になりたいのかな」「そうかもね」皆カモメを指さしながら口々に何か言っている。
だがD男はふさぎ込んでいた。シングルファーザーの父が経営していたヘアーサロンを閉め、二人ともども日本に引き上げる事になったのだ。友人とふたり洒落たビルの中に小粋なサロンをオープンした父、コロナのパンデミックで急激な経営不振。D男は友達ともこの街とも絶対離れたくなかった。
B子も明るく振る舞っているが、実は家業の寿司屋が急激な右肩下がりの売り上げで、テイクアウトシステムで何とか食いつないでいるが、いつまで続くか。「20年も頑張って来たんだ、ここで店を閉める訳にはいかない」父の強気な言葉が唯一の救いだ。
ここは有名な日本人の多い街で普段アメリカ人のお客が少ない商売は、何かあればすぐにあおりを受け破綻する。
かもめの一匹が窓辺のA子のそばに寄り、つんつんと嘴で窓ガラスをつついた。「うわーなにこれ、何かサインを送ってる見たい」みんなが窓辺に寄ると、カモメ達はいっせいに飛び去った。「ねーみんな、海に行かない?」B子が言うと誰もが玄関に急いだ。
歩いて5分の浜辺に行くと、誰もが潮風にすがすがしさを感じ気持ちが一変した。青い空、青い海、押し寄せる白い波、高校生じみたサーファが一人波の上にいる。まだ初心者なのかどこかへっぴり腰だ。「こんな日に波乗りなんて、波が小さすぎるよ」とC男、「経験がないんだよ、まだ」誰かが言った。
するとA子が思い切ったように言った。「実はみんなに言おうと思ったんだけど、私、もうすぐ日本に帰るの」「えっ?」「どうしてー?」とみんな。「立ち上げた父さんのコンピュータ会社、もう駄目なんだって」「えーっでも日本に帰ってどうするの」B子が真剣に聞く。「前に勤めていた会社の社長さんが仕事をくれるらしいの」
実は私も、実は僕も、とB子とD男が自分の家庭事情を話しはじめた。「C男はいいわよね、叔父さんの家に居候で。高校までこっちにいるんでしょ」とA子が羨ましそうに言った。
「父さんがどうしてもこっちの大学に行けっていうんだ、将来のために。でもアメリカも今は大変なんだけどね。親戚の家だと言っても色々嫌な事もある、あまりわがままも言えない、でもここで両親が恋しいなんて言いたくはない」顔を少ししかめたC男を皆が見つめた。
その時さっきのサーファーがボードからひっくり返って海に落ちた。それを見て「俺、やっぱり日本に帰ろうかな、サーフィンも出来ないし」とC男が言うと「ははははは、、、」皆が笑った。