キーッキーッと言う鋭い金属音が耳をつんざく

キーッキーッと言う鋭い金属音が耳をつんざく。冷たいガラスの表面を同じガラスの破片で引っ掻くようなイラつく音だ。それは確かに私のコンドの隣棟の外階段から聞こえてくるのだった。

たまりかねて外に飛び出した。少年が一人最上段に、もう一人が最下段に位置し、階段の黒い鉄製の手すりの上から下へミニカーを走らせている。ミニカーが最下段まで行くと、下にいる少年が上まで届けに行くと言うご苦労な事をやっているのだ。そしてまた上の人が下に走らせる。

「その遊びやめてくれない!うるさくていらいらするわ!」きつく叱って見た。だが二人はどこ吹く風?とばかりにキョトンと私を見つめた。「こんなお天気のいい日にそんな所にいないでボール遊びでもして外で遊んだら!」私はコンドの中庭を指さした。

そこには日差しを浴びてキラキラ光る芝の目が広がっていた。黄色い二匹の蝶が飛び交っている。春なのだ。

しばらくすると芝生の上で、フットボールを投げ合う二人の姿が見られた。以外に素直な彼らのリアクションに私は少しばかり胸が熱くなった。

若くもなく穏やかな孤独と肩を寄せ合い生きる私に、一抹の寂しさがない訳ではない。そこにやって来たこの少年たちにある種のさわやかな衝撃を感じた。それは朝の静かな青い海を疾走する二艘の白いヨット、それも偶然見つけた小さな白いヨット達だった。

「言う事を聞いてくれてありがとう。二人は友達なの?」彼らのそばに行き聞いてみた。「彼は僕のステップブラザー」背の低い方が答えた。「と言う事は?」「お母さんが違う」「あっそうか」と言う私に少年はニコッと笑った。年を聞くと8才と答えた。

それから彼は時々、私のポーチのそばの大きなオリーブの木に登り居間の私に手を振ったり、隣の二階の彼のポーチのガラス窓から、下のポーチにいる私に微笑みかけるようになった。もう一人の少年は別の母親の所に戻ったのに違いない。

だがこの少年がある日こつ然と姿を消した。不思議な気がして彼の二階のポーチを見上げると何となくガランとしている。窓辺にあった観葉植物も消えている。微量な落胆と回想を繰り返しながら私は少年との再会を待ち望んだ。引っ越したのかな?と軽く思いもしながら。

すると彼がやって来たのだ。とても早い朝にポーチの花壇に水をやっていると彼が現れた。このコミュニティには車の往来が激しい表通りから、幾つもの細い道がコンドの敷地内に続いている。その一本の道から彼はやって来て私の前を通り過ぎる。

とても退屈な舞台に突如あらわれ、満場を沸かせる子役のように彼は現れた。たった一人の観客である私は息を呑むように彼を見つめる。

だが彼は顔をそむけ私の前を足早に通り過ぎようとする。手に持った白い小さなビニール袋を隠すようにしながら。袋の中身はなにか?彼は小さな麻薬の運び屋さんに見えおかしかった。

「グッドモーニング!」大きな声で言ってみた。「モーニング」蚊の鳴くような声で答えると彼は私を見ずに走り去った。

彼がとても複雑な家族構成の中で暮らしている事は、彼を訪れて来る人たちの顔ぶれで分かった。まず父親らしき人が見えない。とても若い祖父母がいる。人の出入りが多いが皆ドアの外でヒソヒソと話す。常に人目を避けるような暮らし方をしている。

少年はこれらの大人たちに囲まれながら時々パッと私の視界から消える。

だが他人の家庭の事情をあれこれ詮索する事は低俗な人間のする事だ。根底にある私の、この下劣な品性が浮上すると私はあくびをする。その事ですべてをご破算できるかのように。あくびを噛み殺しながら少年の笑顔を思い出した。

彼はたぶん白人とヒスパニックの混血と思われる可愛い顔をしている。その顔を時々いろどる影の微笑がとてもミステリアスなのだった。

ある日の午後、白い花びらが舞い散る牧歌的な細道を、少年と母親が向こうからやって来た。母親はストローラーを押している。赤ちゃんが生まれたのだ。すれ違いざま彼がちらっ私を見た。私はここぞとばかりに母親に言った。「あなたの息子さんはとてもいい子ですね」彼女はにこりともせずに困ったように顔をそむけた。

やがてハロウインがやって来た。彼のポーチはとても殺風景だ。だがその窓際にかぼちゃが一つ置かれた。私はとても豊かな気持ちになり、母親に買ってもらったかぼちゃを嬉しそうに抱えた彼の姿を想像したりした。

少年がスキップしてこちらへやって来る。とても幸せそうだ。パーマをかけた髪がふわふわと宙に舞っている。「髪型を変えたのね、とても似合うわ」と言うと「サンキュー」嬉しそうに照れた。

ガタガタドンドン、ガタガタドンドン、凄まじい音がする。外を見ると少年がコンクリートの道の上でスケボーの練習をしている。“ガタガタドンドン、ガタガタドンドン”板を両足でフリップしながら向きを変えようと必死だ。まだまだ未熟でふわふわと宙に舞うパーマだけが目立つ。

ポーチから見ている私に気づき、彼は遊びをやめた。そして姿を消した。

敷地内の一角に使用不可の無人の駐車場がある。シャッター付きのガラージに囲まれたコンクリートの空間がある。そこでスケボーの練習をしている彼を見つけた。物陰に隠れて見ている私に気づきもせず、転んでも転んでも必死になりやり直す。尻もちをつきながら何度も何度もやり直す。

この子は大丈夫だ、聡明で素直で優しく気迫さえある。きっと立派な大人になるだろうと、私は思っている。

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