アレンは不思議な指を持っていた。それは常に悩ましいうずきを持って彼を脅かし、あるいは翻弄した。その繊細な指の思いを、彼は黙殺することなくむしろ添って生きる事にした。
だがその繊細な指の思いとは、別に指の先から美しい花が咲き開くとか鳩が飛び出すとか言う類のものではなかった。
ときめくような顔をした観客の前でショーを見せ拍手喝さいをもらう手品師の父に、彼は少年の頃ある種の羨望と誇りを抱いていた。シルクハットに黒マントを着た父が、ショーの終わりに両手を高く上げお辞儀をする。その時の高揚した父の顔を見ると胸がどきどきした。
それも十代の中期にはいるとそれが蔑視や卑下に変わって行った。父の生きざまが馬鹿らしく、手品なんてトンマな奴のする事だと思うようになった。父が手品師だなんて人には言えない、、、彼はそう思った。
彼が幼い頃二人きりになると父は、観客の前でやるすべての手品の種明かしをして見せた。
「こんなものは練習すればバカでもできるようになる」と言った。「ただ手際よくやるだけだ。観客は馬鹿だから簡単にだませるんだよ」と薄笑いをした父のあざとい横顔を、彼は今でも忘れない。
