これはコロナウイルス パンデミック以前の話である、
「ハニー、これな~に~?」女があまったるい声を出した。見ると、中が空洞の四角いコンクリート製の箱のような物が、地面に転がっている。転がっていると言う描写がぴたりと当てはまる、それは見捨てられた武骨な物体だった。箱の一面が縦長の古い鉄柵でおおわれ、その黒ずんだ赤さび色は、どろどろとした人間の古い血のようだ。
「これは200年前のアメリカの刑務所だよ、昔はこういうものが町のあちこちに転がっていたんだ」右手に絡めた女の腕を邪険に振りほどき男が言った。「刑務所?」「そうだよ、お前みたいな女を入れて置く汚い箱だよ」と言いかけた言葉を飲み込み、男はクルリとあたりを見回した。
