大学前のバス停、心理学の授業を終えたばかりのウエインは、ベンチに座って横を向いていた。目線は信号機の柱の根本にある白いバケツに入った花束。バラやカーネンション、アネモネと言ったありきたりの花。しかし彼はそれらの花に魅せられていたのではなく、花の出所を考えていたのだ。
花が初めてそこに現れたのは三か月前。何のために信号機の柱の基部に花が置いてあるのか、誰かが事故で死んだりすると、その現場に献花と称して人々が花を添えるが、ここで人が死んだと言う話もない。メキシコ人の花売り男の忘れ物かとも思ったが、この辺にそんな男はいっさい見た事がない。
しかも花は枯れると捨て去られ、またもや新鮮な花束がバケツに入れられる。誰の仕業か、酔狂な奴もいるものだ。そこで彼は思考を断ち切り立ち上がった。バスが来たのだ。
ウエインの父親は三年前に殺された。パトカーで地域をパトロール中、暴漢に襲われ防ぎきれずにピストルで撃たれた。暴漢は黒人の若者3人だった。DV、性暴力、麻薬、盗みがはびこる危険な場所で、父親は以前彼らを逮捕した事があった。刑務所から出たばかりの彼らが逆恨みで父親を殺したのだ。パートナーは無事だった。
事故現場にはおびただしい献花、ペットボトルが供えられ、ろうそくが灯された。やはり黒人だったウエインの父親は、非常に人望のある皆に好かれる人だったのだと彼は思おうとした。
