「また別れた夫が戻って来てるの」女友達が私のすぐ横で言った。「今度はどれくらい居るの?」私が聞く。「わからないわ、気まぐれだから」「今でも暴力を振るうの?」「前よりは良くなったけど、髪を引っ張って床を引きずり回すのは今も変わらない」「野球バットでぶったりはもうしないでしょ?」「まあね、でもあの人急に豹変するから怖いの」と友達が言ったところで左斜め前のブースのアボカドが目に入った。
走り寄り手に取って見ると手のひらにずしりと重さが乗り、つやつやとした皮の中身のまろやかさが分かる。隣のトマトも白く粉を吹き畑の土の匂いがする。その隣のオレンジも、たった今枝からもぎとったようなフレッシュな香り。これだ、ファーマーズマーケットの醍醐味は。太陽の下で本物の畑にいるような気がする。自然の土をふんでるような気がする
ふと背後でインド音楽のようなものが聞こえ、振り向くと眉間に赤いほくろをつけ、瞑想のポーズをした女占い師が見えた。青いサリーを着ている。目の前の金属製の小さなツリーに、幾つもの香料袋を下げ、瞑想はしているが目はぱっちりと開けている。私をじろりと見た。美魔女と言った感じ。ラベンダー、クローブ、スターアニス、ミント、きついスパイスの摩訶不思議な匂いで目が眩みそうになる。よく見ると彼女は両足がなかった。
あれっ、友達はどこへ行ったんだろう、急に静かになって姿が消えた。きっと私みたいにファーマーズマーケットのざわめきに夢中になってるんだろう。まあ、いいか。
でもこのマーケット、今日はやたら出店が多い。途中で店がとぎれてもそこを右に曲がれば、また屋台が並んでいる。同じような店が幾つも並んでいる。まるで迷路だ。
