幸か不幸か、私は料理を作るのが好きだ。少女時代には家族全員の夕食をほとんど毎晩作り、おいしいと言われその気になりのめり込んだ事もある。結婚してからも同様で、家族からうまいと言われた。特にスパゲッティ用のミートソースに隠し味として醤油を入れると「微妙なうまみがある」と言われ、一人ほくそ笑んだ事もある。ついでにアンチョビも入れた時は、塩辛いと言われた。
私の料理の仕方はとてもおおざっぱで、香辛料、調味料をレシピ通りにはかると言う事はまずしない。だが味見は良くする。味見のしすぎで、舌がマヒしてしまう事もあるが。
何でも残すのがもったいなくて、材料があまるとそれでもう一品作る。例えば天ぷらの場合、残った野菜や魚を細かく刻み、残りの衣に少し粉を足し、小判型にしてフライパンで焼く。見た目はポテトケーキのようだ。
だがせっかく生まれたからには、何もかもレシピ通りにやって見たい料理が二つある。一つは立派なデコレーションケーキ、もう一つはスパイスの効いた本格的なカレー。

カレーには思い入れがある。短大を受験する前の夏、他県の大学で受験者のための夏期講習を受けた事がある。私と友人はその主催者の家に寝泊まりしたのだが、そこの娘さんが作ったカレーが絶品だった。来る日も来る日も出される料理は、ご飯に黒いカレーをだらりとかけたものだけ。それでも飽きなかった。カレーのなかに肉や野菜の具は見えず、とろとろの黒褐色の液体で、いつも大きな茶色いかめのようなもので一日中コトコト煮ていた。黒いカレーと言うのはめずらしく、とても洒落て見えたものだ。
私たちが寝る場所はツリーハウスだった。坪庭に降りて大木に掛けられたハシゴを登り、板と麻縄で出来た吊り橋をおっかなびっくり渡り、向こうの木までたどり着く。その木にハウスが造りつけてあった。朝目覚めると、すでに昨夜から煮込み始めたカレーの匂いがハウスの窓までやって来て、今でもあの香りが忘れられない。コリアンダー、ターメリック、クローブ、スターアニス、シナモン、ありとあらゆる香辛料をぶち込んだことは間違いなく、どこか薬っぽい匂いだった。それが私好みだった。
あの頃まだ日本ではツリーハウスと言うのは、良く知られていなかった。ああ、そうだったのかと今思うだけで、変な部屋だなぐらいにしか当時は思わなかった。女高校生二人に寝部屋としてツリーハウスをあてがう主催者の心意気もさることながら、すべては懐かしい思い出だ。他に男子生徒が数人いて、彼らもダイニングルームでカレーを食べていた。あの人たちはどこに寝たのだろう?
