サクラは浮気している。足の悪いだんなをいい事に、女を連れ込みイチャイチャやってる。彼女の愛人が女だと言う事を問題にしてるんじゃない。今どき同性愛などみなやってる。サクラにはもう一人愛人がいる。それが問題だ。
庭にレモンの木が三本ありブーゲンビリアの花が塀に絡まる、そんな家に新しい女は住んでいる。とても目立つ家だ。女は塀のドアから出て来て、大きなゴムの木の後に隠れる。サクラの姿が見えるとまるで犬が尻尾を振るように、走り寄って来る。サクラは手のひらを開いて小さな宝石を見せる。その手のひらに女はキスする。「宝石?ただの餌じゃないの」とサクラは言う。そうだ餌だ、女を釣るための。
サクラとは中学、高校、短大と一緒だった。親友だと私は思っていた。「いつまでも友達でいようね」私は彼女に言い続けた。人に好かれず孤独だった私は、サクラだけがたより。イエスともノーとも言わず彼女はただ微笑む。その微笑みが恐くもあったが、先の事は考えない事にした。カリフォルニアに遊びがてらの一年留学を彼女が決めた時も、迷わずついてきた。だが二人でホームステイした家の近くに小さなアイスクリーム屋があり、なんとサクラはそこのオーナーと結婚してしまった。留学半ばで結婚。昔から無鉄砲な性格でそこが魅力だった。「あたしも店でアイスを売るのよ」サクラは嬉しそうに言った。

「あんたが結婚したらどうなるの、あたしは」「大丈夫、面倒みるよ」サクラは流し目でそう言った。ブラッドの店は小規模だが繁盛していた。うしろかぶりの野球帽で頑張るイケメン、性格がさっぱりしていた。だが彼はじきに足の甲を骨折した。朝だけのジョギングを夜もやり初め、張り切りすぎたのだ。サクラは私に一緒に店で働いてくれと言った。
その頃だ、サクラが愛人を家に連れ込んだのは。ブラッドは文句も言わず、黙ってその女を見ていた。私もすでに彼らと暮らし、二人の生活をつぶさに見ていた。「せめて彼の前で女を抱くのはやめて、あんまりじゃないの」私の助言をサクラは鼻で笑った。集中力がなく、店のOPEN、CLOSEのサインさえ忘れるサクラは、事の重大さに気づいていない。
ある日私が店に一人でいると、ブラッドがふらりと立ち寄った。まだギプスをはめ松葉づえをついている。ガラスケースの中のアイスのコンテーナーを布きんで拭いていると、「君は良くやってくれる」としみじみ言った。「商売の才能があるよ」とも言った。生真面目で寂しそうな彼の顔を見て、妻になるべきなのは私だとちらっと思った。だがその晩、驚くべきことが起こった。サクラのもう一人の愛人が突然訪ねて来たのだ。

迷いあぐねやっとドアをたたいた女に、サクラは感激していた。「良く分かったわね、ここが」と言い女を抱きしめた。部屋に入って来た女をチラッと見て、ブラッドはまたかと言う顔をした。女たちはこれ見よがしにブラッドの前で、サクラに甘える。サクラは生き生きして前より美人になった。二人の女愛人のおかげだとは思いたくもない。
店の売り上げが少しづつ減っていく。ブラッドを助けたいと私は頑張る。だが心迷いがありうまく行かない。サクラはもはや頼りにならない。ついに二人の女愛人を家に住まわせ、私たち三人の仲はとても気まずくなった。女達はハデなケンカをし家中をうろつきまわり、大声で話した。行儀作法がなってない。
「売り上げが落ちてるよ。真面目に店の事考えたらどうなの!女を二人も家に連れ込み、いい加減にしなさいよ!」ある日私はサクラに詰め寄った。もうがまんが出来なかった。すると彼女は珍しく派手に怒った。「あんた、ホントにうるさいわね!私だって、ブラッドの介護で疲れてんのよ。リハビリのヘルプだって大変なんだから!」「でも愛人を二人も連れ込むなんてどうかしてるよ!」二人の女がブラッドのギプスの上に飛び乗るのを、痛い思いで私は見ていた。
サクラが手にしていたテレビのリモートコントロールを床に投げつけた。「ああー、あんたほんとうるさい!愛人愛人ってたかが猫じゃないの!」ブラットがカウチでじっとこちらを見ていた。そうだ、たかが猫、されど猫なのだ。猫で身をほろぼす女は多い。猫は魔性の生き物。人間を冒とくする。とてもあやふやで不安定な私たちの暮らしを、ひっかき回そうと二匹の猫が爪をとぎ待ち構えている。
