「桜の木の下には死体が埋まっている」と言うあの都市伝説を、信じている人が本当にいるのだろうか。もともとこれは約90年前に書かれた、梶井基次郎の「桜の樹の下には」と言う短編小説が元ネタだと、知ってる人は知ってるだろう。
小説の中では、桜の木の下には人間や動物の死体がうまり、その腐乱した死体に木の根が入り込み、中にある得体の知れない液体つまりは養分を吸いあげ、それが幹をつたい小枝をつたい、あのような美しい花を咲かせるのだと言っている。デカダンスで幻想的な小説。その桜の花の下で、私はいま数人の友人と花見をしている。春の暖かさに惑わされた沢山の花見客もあたりにいる。爛漫の桜を見上げビールを飲み、弁当を食べ、友と笑いながらなぜか不穏な空気に私の眉が曇る。
いつの間にかうたたねしてしまったのだろう。あまりの肌寒さに目が覚めた。ふっと上半身を起こしてみる。あたりはすっかり暗くなり誰もいない。あちこちに立ち並ぶ桜の木が風もないのにざわめいている。まるでブランケットのように、体の上に振り落ちた花びらをつかみ、頭上を見上げた。ライトアップされた夜桜と言うのは大勢で見る分には美しく魅惑的だが、一人で見るとその凄絶な美に恐怖が重なる。それぞれの樹に、それぞれの魂を持つ妖怪が潜んでいるような。

一つの幹の中から幼女がピョンと飛び出した。金髪で青い瞳の絵に描いたように美しい子。その隣の幹からもう一人、さらにもう一人。彼らは笑いながら私めがけて走って来る。「mommy!mommy!」と叫びながら、私の肩や髪に抱きついてくる。「やめて!やめて!私はあなたのマミーじゃない!」私に青い目の子供はいない。首が苦しくなり肩がひりひりしてきて、手を振り放そうとした時、一人の幼女の顔が百歳の老婆に見え、そこで目がさめた。

