とんがり屋根に円筒を

とんがり屋根に円筒をくっつけたようなその廃屋は、全体が格子編みの古い竹細工で出来ていた。洒落たアパートや新築のコンドが多いこの一角に、なかば腐りかけた小屋が破壊されない理由は、そのあずま屋全体にびっしりと絡みついた青紫の西洋朝顔のせいにあった。朝顔は年がら年じゅう妖しい生き物のように、その花びらをぴりぴりと震わせ、その見事な美しさと強い生命力で道行く人々を魅了した。それは妖艶と気高くりんとして優しく、まるで誇り高き老いた娼婦のような風情にあふれていた。

39592576 - morning glory

孤独な留学生のタツヤも、このあずま屋に魅せられた一人。彼は、いつまでも自分を玩具のように手元に置きたがる母親と、大喧嘩をしとうとうこのカリフォルニアにやって来た。初めての異国での一人暮らしはやはり心細い。だが今度こそ彼は、母親の呪縛を引きちぎるつもりでいる。自分にまとわりつき引き起こす、母の意味不明な錯乱に彼はほとほと嫌気がさしていた。

 そんな憂鬱を抱えながらある日あずま屋の前を通りかかると、扉の花とつるが無残に引きちぎられ、扉がわずかに開いている。彼は吸い込まれるように中へ入る。「ヘイ、ゲイのお兄さん、いらっしゃい」やけに色っぽい白人の美少女が彼に言った。腰掛にちょこんと座り足を組んでいる。ショートパンツからはみ出した長い足の見事さに、彼は一瞬ひるんだ。「俺はゲイじゃない!」人からいつもそうからかわれるので、彼はむきになった。少女はパーマをかけた長い金髪を額の上で二つに分け、両脇にたらしている。耳下あたりを黒い紐でゆるく結んでいる。「どうして扉を開けたんだ。花が台無しじゃないか」バカな事を言ったとタツヤは舌打ちした。小学生いや中学生、安物のアクセサリーをつけ、派手な化粧をした女の子が、なぜこんな場所に一人でいるのか。「あたし、お友達待ってるんだ」「お友達?学校の?」少女は何も言わず、携帯で時間を見るふりをした。あずま屋の中は、外に張り巡らされた西洋朝顔のせいで薄暗い。だが格子の網目から花びらを透かした光線が差し込み、みょうに幻惑的なムードだ。そんな所でこんなエロチックな少女と二人きりでいることに、タツヤはなぜか焦りを感じた。「あなた、バージンでしょ」突然少女が言う。「違う!」「じゃなきゃ、ママーズボーイ」彼は少女を睨んだ。その時扉が開けられイケメンの若いメキシコ人が、横すべりに入って来た。少女がとんでもない色目を使って男を見る。男はじろりとタツヤをにらむ。すると少女は立ち上がり男をうながし外に出た。だがすぐまた自分だけ戻ると「あたしに会いたかったら明日ここに来て。午後の三時そうね四時、四時がいいよ」つま先立ちであっと言う間にとてもセクシャルなキスをした。舌を入れてきたので、タツヤは目もくらむようだった。

 タツヤは二十才にもなってまだ童貞だった。童貞と言う文字が額に張りついたようで、日々イラつく。それが捨てられないのは母親のせいなのだ。母親は重度のヤキモチ焼きの恋人のように、タツヤの後ろでいつも目を光らせている。彼女はその事の異常さに気づいていない。だが彼は気づくべきである。彼の母親とあの美少女が、実は完璧な表裏一体の関係にある事を。母の内面に少女の魂が、少女のそれに母の魂が、物悲しくひそんでいる事を。彼はふと考えた。明日あずま屋に行けば、あの子がいるんだろうか、そして俺はあいつに抱かれるんだろうか。彼はその晩、激しく射精した。

 

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