クッキングショーのホストが

クッキングショーのホストが餃子の皮をクルクルとまわし、作った餃子を天板に並べて行く。マミは上目づかいにテレビを見ながら、クルクルと編み棒を動かし、網目を増やして行く。料理がうまい、編み物がうまい、どっちが女としての力量は上なのだろう、とそんな事を彼女は考えもしない。テレビから目を離さずに、餃子はオーブンに入れるよりフライパンで焼く方がおいしいのにと、ちょっといちゃもんをつけてやる。

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彼女は料理が嫌いと言うより嫌悪している。なぜなら誰も喜ばないから。レシピ片手に、バラエティ豊かに栄養満点にと、テーブルを飾ったのも、遠い昔の事。今でもたまにはとご馳走を作るが、中学生の息子などは作った料理には見向きもせず、すまし顔でセリオに牛乳、砂糖をかけ食卓に持って来る。夫も同じ事をするのでもうあきらめた。そこで料理をもっと勉強しようと思わないところが、彼女らしさである。編み物をしても誰も文句は言わないが、誰も着はしない。だが暇つぶしになるのでやめはしない。もはや際限なくエンドレスのマフラーを編む今日この頃である。要するに彼女は欠陥主婦なのである。

だが夫もそれに輪をかけ怠慢、能天気、不精、会社を休む事も多々ある。当然昇給はむずかしい。マミは時々脳天に血がのぼり、ガミガミ怒鳴り散らす。が、夫はどこ吹く風、暖簾に腕押し。だからマミもそれ以上突っ込む気はしない。こういうのを世間では、似たもの夫婦と言う。彼女はこんな暮らしが不毛に近い事を薄々気づき始め、どうにかしなければと思ってはいる。そこがつまりは彼女の長所ある。

「かあさん、あした弁当いらないから」中学二年のヒロキががらりとふすまをあけ、ぶすっとした顔で言う。「どうして?」と母親。それには答えずまたふすまを閉める息子。そこへ夫が風呂から上がって来た。「ねえーカズー(夫には和義と言うれっきとした名前があるが、マミは省略する)」隣に座った夫ににじり寄り声を低め「ヒロキ、学校でいじめにあってるらしいよ」「誰が言った?」「もちろんヒロキじゃない、何言ってんの,バカね」「困ったな」「そうよ、自殺でもされたらカズの責任だからね」「なんで俺の責任になるの?」「あんたがしっかりしないからみんなに馬鹿にされるんじゃない」「、、、、、」「なんだか、ドッジボールの時みんなが集中的にヒロキにボールを投げつけるんだって、それに人の悪口を言う反省会みたいなのがあって、それに五回以上名前を呼ばれたら、放課後モップで廊下を、五回もふかなきゃいけないんだって。ヒロキ、それ毎日やってるらしいよ」「俺も中学の時、同じような事があった」「それでどうした?」「その時は全然気にならなかった。二十年位たってから、ああ、あれはいじめだったんだって分かったけど。いじめられてもポカンとしてたら、あいつら寄り付かなくなったよ。いじめなんてやるのは、ザコだからね」「ヒロキになんか話してみたら」「うん」ヒロキはこの一部始終を隣の部屋の布団の中で聞いていた。

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一か月程してのある日曜日、父が息子を公園に誘った。息子は「きたな」と思いにやりと笑った。重要な話があると公園に誘うのが、父の常とう手段だとヒロキは心得ている。二人はブランコに乗っていつものように、リラックスした。「ヒロキいじめどうなった?」「いじめ?」「学校でいじめられてんだろ、ママに聞いたよ」「ああ、あれ終わったよ」「終わった?」「あんな事気にしてたら、今の世の中生きていけないよ、何やられても知らんふりして、言われたとおりにしてたら、みんな寄ってこなくなった.あいつらザコだからね」ヒロキはすまし顔でハンバーガーにかじりついた。この息子は似た者同士の怠慢夫婦に、毒されるどころか素晴らしく洗脳されたようである。

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