限りなく透明なブルーで知られるカリブ海の底には、ものすごい数の人間の姿をした彫刻が沈められていると言う。その目的は天然の珊瑚を保護する、あるいは海底ミュージアムとして世間の注目を引き、ひいては崩壊しつつある海の自然への人々の関心を、取り戻す事にあると言う。壮大なプランだ。

だが海底の彫刻達は時の経過とともに、サンゴや藻、あるいは微生物にまとわりつかれ、それは不気味な様相を帯びてくる。あのおどろおどろしいツリーマン症状やハンセン病患者の肌合いになるのを、映像で見た。彫刻のモデルは地元の市民と言うから、働き者の漁師や市会議員、あるいはパン屋の売り子が、実物とは似ても似つかぬ恰好で立たされ美しい小魚にあたりを泳ぎまくられ、醜い肌をはぎ取ることも出来ず風化するまでじっと我慢の子をやらされるのだ。私だったら嫌だな。
それに作り手の手を離れた彫刻は、いずれ独自の魂を裡に秘めるようになると言うから、あの高村光太郎の「手」が夜更けにカニのように横歩きをするとか、ロダンの「考える人」が人のいないすきに、背伸びして大あくびをするなどと言う事は絶対ないにしても、海底の彫刻達はたまに顔の筋肉をひきつらせたり、小指をピクリと動かしたりはする事はあるかも知れない。馬鹿にするのもいい加減にしてくれと。モデルになった地上の人間たちとは、違う魂を持たされた彼らは醜い体をネットに晒され、長い年月を過ごさなければならない。中には海の自然を守るために貢献していると、嬉しがるモデルがいるかも知れないが、海底の彫刻達はもはや別人格を宿しているから、そうは行かないのである。
しかしながらそんな事を言うのは、よっぽど暇人の私ぐらいのものだ。昔から人のやる事に難癖をつけ、昼寝ばかりしたがる私にいつか天罰が下るのも、そう遠い事ではないだろう。いやすでにもう。私はあの彫刻達のなかに私そっくりの一体を見つけてしまった。
